圧倒的非日常にいざなう「星のや」から居酒屋以上旅未満の「BEB(べぶ)」そしてその他の個性的な施設を含めて60施設ものラインナップを誇る星野リゾート。
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それらほぼすべてを取材しているW LIFE編集長の小野アムスデン道子が星野リゾートのブランドごとの楽しみ方・遊び方に最新情報も入れてお届けするトリセツならぬ「タビセツ」。今回は共に建築家隈研吾氏の設計の「界 別府」と「界 由布院」を巡って、キャラクターの異なる界での温泉三昧をご案内します。
さすがおんせん県大分。実は「界 別府」「界 由布院」に加えて「界 阿蘇」と星野リゾートの温泉旅館「界」は3つもあるのですが、今回は同じ建築家でも異なった趣きで楽しみ方も違う「界 別府」と8月3日に開業した「界 由布院」を回りました。
ドラマティックな別府の温泉街が旅館の中に登場「界 別府」
まずは大分空港から空港特急バスで50分、徒歩すぐの停留所まで直行できる「界 別府」へ。別府湾に面して立つ建物は、2階の湯の広場に行くと目の前に別府湾の眺めが広がっていてびっくり。さっそく眺望のいい足湯につかってひと休み。
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この「界 別府」は、廊下の途中にラボがあったり、ベンチのある中庭が設けられていたりと建物自体が街のよう。お食事処は吹き抜けの階段を下りていくお食事、大浴場(女性)はエレベーターで地下へと、テーマになっている「ドラマティック温泉街」を巡り歩く感じです。
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客室は、扉を開けると最初は血の池地獄の赤から着想を得た古代色である“柿渋色”の壁、そして部屋に入るとピクチャーウィンドウの向こうに広がる別府湾に目を見張ります。竹の家具や豊後絞りの照明などといった伝統工芸をモダンに使ったナチュラルなインテリアに対して、ドラマティックな海の眺めが際立ちます。
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温泉は、源泉かけ流しで体を活性化させるあつ湯とリラックスできるぬる湯温の異なる2つの湯船がある内風呂と露天風呂。そんな温泉のつかり方や呼吸法などを聞きながら、湯上りに使える温泉水ミストを作るのがうるはし現代湯治の「温泉いろは」(無料)。温泉に入る前にはぜひ参加を。
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お食事処に向かう階段は、竹蜻蛉が翔ぶ情緒ある空間。夕食には大分の名産品“かぼす”や近海の新鮮な魚介を使ったお料理が次々に登場します。特別会席「豊後なべ会席」の台の物はかぼすをくぐらせて鶏出汁にまず伊勢海老を投入、クエやフグなどの魚介の旨味が広がる豪華な鍋でした。
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夜も更けると、中庭には流しのギター弾きが現れ、館内にはスマートボールや別府八湯輪投げなど大人も子供も夢中の遊技のほか、地獄ラーメンの屋台も。ドラマティック温泉街は一気にお祭りのような雰囲気になります。
フィナーレは、法被を着たスタッフが手おけやたらいなどを駆使して演奏するご当地楽「湯治ジャグバンド」。「はい、みなさん手拍子で返して」の声にその場の盛り上がりは最高峰でした。
翌日はまたうそのような静けさが戻った湯の広場。温泉で染料を落とし、模様を浮かび上がらせる別府温泉絞り(1時間1800円)を楽しんでいるゲストもいます。楽しい温泉街の盛り上がりと温泉の寛ぎを満喫しました。
界 別府 https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaibeppu/
由布岳と棚田、静かな里山に身を置いて湯を楽しむ「界 由布院」
さて、ドラマティック温泉街の賑やかさを楽しんだ「界 別府」から里山の静かな棚田の風景を楽しむ「界 由布院」へ。バスや電車で由布院駅を経由していく場合は、由布院駅からはタクシーで約10分、無料送迎バスも出ています。
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大分というのは「大いなる田」から由来していて、あちこちに田んぼや棚田があります。「界 由布院」の開発時にランドスケープを検分した時に、棚田があったであろう土地形状で、すぐ近くには今も使われている棚田があります。美しい由布岳を望み、そんな里山の風情が感じられる「界 由布院」のコンセプトは「棚田暦で憩う宿」。隈研吾氏は、棚田を中心に施設の設計デザインをし、田植え前の水鏡から新緑の田んぼ、秋の稲穂に晩秋の藁積むなど季節の移ろいを表現しています。そんな場所に身を置いて、棚田テラスから広がる眺めをぼーっと見ているのがとても贅沢に感じられます。
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ロビー床は、玉砂利で農家のたたきを表現しているそう。よく見ればフロント台にはお釜が!その向こうに眺望の広がるライブラリーやテラスがあって、お茶やコーヒーも置かれ、くつろげます。座敷のようなスペースではご当地の文化を体験する「ご当地楽」として、由布院の農家で行なわれる手仕事「わら綯い(ない)」でお守りづくりを体験します。わらを均一に綯うのは、思ったより難しいのですが、とてもいい思い出を持ち帰ることができます。
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客室は45室すべてがご当地部屋「蛍かごの間」で、うち5 室は2タイプの離れで客室に露天風呂も。また、ドッグラン付きの愛犬と一緒に泊まれる客室も1室あります。「蛍かご」は、螺旋状の形をして中に蛍がちかちかと淡い光を放つような照明です。竹でしつらえたヘッドボードやソファが置かれた部屋全体が「蛍かご」のように感じられます。
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大浴場の内湯は、ここもあつ湯とぬる湯の温温の異なる2つの湯船を楽しめ、露天風呂からは四季に彩られる由布岳が眺められて、自然に包まれて温泉が楽しめます。ゆっくりと湯を楽しんだ後はお食事処へ。半個室と棚田を望むカウンター席があります。夕食は大分県の特産品である竹や小鹿田焼の器で次々と季節のお料理が登場します。特別会席の「山のももんじ鍋会席」は、穴熊、鹿、猪、牛肉と4種の肉をすっぽんのスープにくぐらせ、それぞれの肉にあったたれでいただくしゃぶしゃぶ鍋。穴熊の肉を初めて食べました!臭みがなく脂身もあっさりしているのにびっくり。赤身の鹿肉も柔らかくて美味しかったです。
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夜は、蛍かごの光に癒されてぐっすり眠り、早朝、朝霧かから由布岳を眺めながら現代湯治体操で深呼吸やストレッチ。とても気持ちいい朝を過ごせました。
”動”の楽しみを提供してくれる「界 別府」と”静”のくつろぎに癒される「界 由布院」。異なる魅力を楽しめる大分の界巡りでした。
界 由布院 https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiyufuin/
Text / W LIFE編集長 小野アムスデン道子
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世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。インバウンド・コンサルタント。日本旅行作家協会会員。