国宝や重要文化財に指定され、誰もが認める「名品」。機会あるごとに展示され、私たちも観る機会が多いですが、一方、展覧会にあまり出品されず知られざる「迷品」の中にも魅力的な品は多いのです。「作品の多彩な魅力を知ることで、自分だけの『メイヒン』を見定めてほしい」という趣旨の展覧会がサントリー美術館で始まりました。「サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品」です。「生活の中の美」を基本理念に、開館以来60年以上にわたりコレクションされてきた3000件にものぼる漆工・陶磁・絵画・ガラス・染織・金工などの中から、「名品」と「迷品」を並べて展示するという大胆な企画です。
まずは、「名品」の代表は、国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》(ふせんりょうらでんまきえてばこ) 一合(鎌倉時代 13世紀)。どっしりとしたフォルムですが、角は緩やかにカーブしており、温かみを感じます。螺鈿による円形の紋様が等間隔に配置され、リズミカルな模様に華やかさがあります。北条政子が愛蔵した手箱と伝わっています。火災や虫の害を受けず現代に残っているのは、政子の霊力が宿っているからとか。さすが国宝。文句なしの「名品」です。今回の展覧会では、同館が所蔵するこの国宝1件に加え、重要文化財15件を全て展示するとのこと(会期中に展示替えあり)。一つの展覧会で通覧できるのはまたとない機会です。
一方、今まで長らく所蔵されてきたにもかかわらず展示の機会がなかった「迷品」の例としては、《御簾綾杉蒔絵結文形文箱》(みすあやすぎまきえむすびぶみがたふばこ)(桃山時代 17世紀)が挙げられます。昔、恋文を送る際に、手紙を細く折りたたんでから結び、「結文(むすびぶみ)」という形にして送ったそう。この文箱はその結文の形を模しています。比較的大きな文箱が、恋文の形を模したものになっているとなると・・・「ここに、恋文が入っていますよ」と宣言しているかのようです。誰かに開けられて読まれてしまったりしないのでしょうか。本命の大事なお手紙は別のところに隠してあるかもしれませんね。そんな妄想がどんどん広がる「メイヒン」です。
私が「これは迷品だけど、名品だ!」とピンときたものを2点ご紹介します。《平四目紋革羽織(一番組よ組)》(ひらよつめもんかわばおり いちばんぐみよぐみ)(江戸時代 19世紀)は、江戸に48あった町火消の一つ、神田周辺の「一番組よ組」の頭取が火事場で着ていた革製の羽織です。今で言うと「革ジャン」でしょうか。粋でいなせな江戸っ子がこの「革ジャン」を羽織って火事場に出て行った様子を想像すると、「名品」に見えてきます。サントリー美術館で40年ぶりの展示だそうです。
もう一つは、江戸時代のガラス製品、《乳白色ツイスト脚付杯 》一口(江戸時代 18世紀)です。ヨーロッパのステムゴブレットを日本で模して作られたものです。近くに展示してある《レースグラス蓋付ゴブレット》(ネーデルラント 16-17世紀)と比べてみてください。ネーデルラントのものは、2種類のレース模様が交互に配置してあり、形も円盤状のものが上下は小さく、中心部分は大きく、積み重なっているようで、複雑な形に合っています。一方、江戸時代の日本で作られた杯は、ステム(持ち手となる脚の部分)が歪んでいて、ボウルの部分と台がずれています。レース模様もはっきりしておらず、完璧な美しさとは言い難いもの。でもその歪みや不鮮明さをじっとみていると、味わい深さや面白みを感じ、手元にあったらリキュールや冷酒を入れて飲んでみたいなあと思い始めました。私の「メイヒン」になった瞬間です。
「学芸員のささやき」というキャプションにも注目してください。「メイヒン」探しをお手伝いする、ちょっとした豆知識やエピソードが書かれています。「心を動かされたらそれがあなたの『メイヒン』です」と展覧会の企画をされた同館学芸員の方もおっしゃっていらっしゃいました。「これ、好きだな」「こんなものが身近にあって毎日使えたら嬉しいな」というような品を見つけられるといいですね!
サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2024_2/index.html
会期 2024年4月17日~6月16日 (作品保護のために会期中展示替えがあります)
会場 サントリー美術館
住所 東京都港区赤坂 9-7-4(東京ミッドタウン ガレリア 3F)
電話 03-3479-8600
開館時間 10:00~18:00(毎週金曜、4月27日、4月28日、5月2日~5月5日、6月15日は〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日 火(ただし、6月11日は18:00まで開館)
観覧料 一般 1500円 / 大学・高校生 1000円 / 中学生以下、障害者手帳をお持ちの方と介助の方1名 無料
Text /トラベルアクティビスト真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。