記録的な猛暑日が続いた8月が過ぎ、暦の上では秋。アルコール度数の低いビールにしか手か伸びなかった夏を振り返り、そろそろワインでも・・・という気分になる季節ですが、残暑はまだまだ続きそう。そんな時、飲みたいと思えるのは、シュワシュワとした泡が心地よく喉を潤すスパークリングワインです。

世界で最も飲まれているスパークリングワインをご存知でしょうか?それはプロセッコ。主な市場がヨーロッパやアメリカゆえに日本ではあまり実感はないかもしれませんが、年間7億本以上も売れています。その10分の1、約9,000万本の生産量しかない上級クラスのプロセッコ「コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG」について紹介しましょう。

イタリア北東部のヴェネト州のアルプス山麓に、コネリアーノとヴァルドッビアーデネという2つの自治体があります。東西35km、標高50~500mの斜面にうねるように連なる丘陵地帯には、プロセッコを生むブドウ品種グレーラの段々畑が貼りつくように広がっています。その美しさは人間と自然の相互作用の成果である文化的景観として、「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコ栽培丘陵群」として認められ、2019年7月にユネスコ世界遺産に登録されました。

プロセッコの文献上の歴史は1772年にさかのぼります。1811年のナポレオンの地籍地図には、コネリアーノの上の丘にal Proseccoという地名の記載があります。1876年にコネリアーノにイタリア初のワイン醸造学校が設立されると、二次発酵の技術や栽培方法の研究が進み、この地ならではのアロマティックで心地よい酸味のワインが確立。その名声は1980年代にはイタリア全土に広がり、やがて世界中に知れわたり、2009年、コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・スペリオーレはイタリアワインの品質を保証する最上位の格付けであるDOCG(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)認定されました。

急峻な斜面では、チリオーニと呼ばれる幅の狭い草地の土手を作ることで、土壌の浸食を防ぎ、ブドウの栽培を可能にしています。上の画像はブドウをケーブルで運ぶ様子ですが、収穫期以外の作業や畑の管理も、年間を通してすべて手作業で行われています。平地に比べ安全面やコスト面のデメリットを賭してでも求める、風通しの良さ、昼夜の気温差が大きいことなどの理想的な栽培条件があります。

来日したヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG保護協会のディエゴ・トマージ事務局長は言います。「40年ほど前に世界に広める運動を始めました。プロセッコの中のトップ・オブ・ザ・トップ、類まれな美しい丘陵から生まれるアイコニックなものであることを伝えて来ました。今後の私たちの課題は、ブドウ栽培と景観と持続可能性を共存させることです。日本人はその価値を理解してくれるものと期待しています」。12本のボトルがずらりと並ぶバーカウンターの前で、にこやかに語るトマージ氏に、W LIFEの読者に紹介すべきアイテムを伺いました。

写真の左から:
Adami / Valdobbiadene Prosecco Superiore DOCG Brut “Bosco di Gica”
自然が与えるニュアンスを理解し、支え、グラスに注ぎ込むことが土地のアイデンティティを保つことと考え、1920年創業時から丘陵ごとに個別醸造しています。生産量の70%がブリュットです。3代目のフランコ・アダミ氏は協会の会長でもあります。フレッシュな花やフルーツの香り。主要品種グレラにシャルドネを僅かにブレンドしたことで生まれる深みが魅力的。リッチで長い余韻を楽しめます。
Bortolomiol / Valdobbiadene Prosecco Superiore DOCG Extra Dry “Bandarossa” Millesimato 2024
ジュリアーノ・ボルトロミオル氏は、協会設立メンバー6人のひとりで、シャルマー方式のパイオニアとされています。1960 年に史上初めてのブリュットのプロセッコを造りました。白い花の香りに柑橘系ニュアンスが重なり、心地よいアロマ。きめ細やかな泡立ちの口当たりが心地よさが印象的です。
Conte Collalto / Conegliano Valdobbiadene Prosecco Superiore DOCG Extra Dry Gaio
コッラルト伯爵家は、958年に始まる由緒ある家系。イザベッラ・コッラルト・デ・クロイ王女が所有するサン・サルヴァトーレ城(このページのトップ画像の風景)のある250haの土地のうち150haがブドウ畑になっています。白い花の香りに、熟した洋ナシとリンゴのふくよかなフレーバー。クリスピーな酸味とエクストラ・ドライならではの甘みのバランスが絶妙。

この場で提供されたのは、全てヴァルドッビアーデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG。同時比較はしていないものの、一般的なプロセッコDOCに比べると、泡がよりクリーミーで持続性があり、アイテムごとの個性が際立っている印象を受けました。
手軽な価格のプロセッコDOCは、いまや日本中どこでも気軽に楽しむことができますが、たまにはワンランク上の逸品を片手に、世界遺産の地に想いを馳せながら、仲秋のひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
Text /近藤さをり

ワイン&グルメPRスペシャリスト。ドイツで5年間、日本企業のワイン仕入・販売や、現地ワイナリー勤務を経て帰国。洋酒メーカー広報部、PR会社勤務を経て現在に至る。カリフォルニアワインのPRに15年以上携わる間も、執筆活動は国やジャンルを問わず。JSA認定ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定ビアソムリエ、Doemens Academy認定Diplom Biersommelier。