1月24日から福岡県太宰府市にある九州国立博物館(以下、九博)で開幕した特別展「加耶(かや)展」をご紹介します。
「加耶」とは、日本の古墳時代、3-6世紀に朝鮮半島中南部に興った国々の総称です。「金官加耶(きんかんかや)」「阿羅加耶(あらかや)」「小加耶(しょうかや)」「大加耶(だいかや)」などの国々は、当時の朝鮮半島の強国「新羅」「百済」、そして古代日本である「倭」と交流がありました。532年に金官加耶が、562年に大加耶が新羅に滅ぼされ、加耶は滅亡します。
加耶は鉄で栄えた国々。一つの目の展示室に入ってまず目を引くのは、「有刺利器(ゆうしりき)」。鉄製で、鉄の細長い板の周りに鳥のモチーフが飾られており、棒の先に取り付けられるようになっています。鉄製の甲冑は、半島の強国に挟まれた加耶諸国にとっては常に戦える体制を整えておくための重要な装備。千数百年も経ったものですが、その力強さを感じます。馬の頭部に被せて、額から鼻先までを守る「馬冑」も。このような馬の甲冑は、加耶諸国の大規模な墳墓からのみ出土されているそう。人のみならず、馬も鉄器で守れるほど強大な権力・豊かな資源や技術の現れなのでしょう。墳墓の副葬品として出土した鉄の延べ棒「鉄鋌(てってい)」は貨幣としても使われていたとのことです。
鉄器や鉄製の鎧などの武具と並んで、装飾品も多数展示されています。金の耳飾りは、細かな細工を施したチャーム状のものがいくつもぶら下がっておりボリュームがあるので、とてもゴージャス。水晶や青いガラスでできた2mを超える首飾りは、何重巻きかにして胸元を飾ったのでしょう。豪奢な冠も展示されています。まさに富と権力の象徴ですね。
会場内では朝鮮半島の古墳群を紹介する映像も流れていますので、是非ご覧ください。遠くに山並みが見えるひらけた土地に、円墳がいくつも並んでいる様子は不思議な、ユニークな感じでさえします。
展示後半は、日本で出土された品々を通して「渡来人とは何か」ということに迫ります。さまざまな地域から日本にやってきた「渡来人」は、それまでの日本にはなかった多くのものをもたらしました。鉄製品・須恵器を作り出した窯業・かまどを使った調理法・牛や馬など、渡来人が古代日本に持ち込んだものは数知れません。千葉県・山倉1号墳から出土した高さ113cmもある「渡来人形埴輪」は、日本の古墳時代の男子の髪型・美豆良(みずら)ではなく、耳飾りや首輪をして、上衣は右前で筒形の袖で渡来人の服装の特徴を備えています。こんな立派な埴輪を作るぐらいですから、日本人も渡来人も仲良く同じコミュニティで暮らしていたのですね。
私が思いの外長い時間、ひとつひとつじっくり見てしまったのは「埴輪牧場」のコーナー。緑色の床面、草原の風景写真を背景にして、日本各地で出土した馬牛の埴輪が展示されています。同じ馬でも大きさや馬具装飾ひとつひとつが違い、丁寧に再現されています。仔馬の埴輪もあります。古代日本人が生活を共にする牛馬に対して持っていたであろう愛情を感じます。3世紀の中国の史書『三国志』魏書に「(日本には)牛や馬がいない」と書かれていますが、そんな日本に牛馬を連れてきたのは渡来人。ただ単に船にのせて動物を連れてくればいいわけではなく、飼育方法に詳しい人、馬具を作れる人たちと一緒に来ないと役に立ちません。軍事力と密接に関連する馬、農耕の発展と関連する牛は、あっという間に日本に溶け込んでいったようです。たくさんの牛馬の埴輪が一同に見られるこのコーナー、「かわいい」とSNSでプチバズリしているようですよ。
加耶が成立する以前から、中国―朝鮮半島―対馬・壱岐―北部九州をつなぐ交易ルートがあったそう。以前、私が対馬を旅した時、対馬の最北端の岬からは、韓国・釜山の街が肉眼ではっきり見える近さに驚き、大昔から交流があったに違いないと確信したことを思い出しました。
加耶に関する展覧会は、日本では30年ぶりとのこと。古代日本に大きな影響を与えた加耶諸国と古代日本との関わりについて、見応えある展覧会となっています。どうぞ足をお運びください。
九州国立博物館 特別展「加耶(かや)展」
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s67.html
令和5年(2023)年1月24日(火)〜3月19日(日)
開館時間:日曜日・火曜〜木曜日
9時30分〜17時00分(入館は16時30分まで)
金曜日・土曜日【夜間開館】
9時30分〜20時00分(入館は19時30分まで)
*夜間開館の実施については変更になることがあります。
休館日:月曜日
Text /トラベルアクティビスト真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。