デンバー発: 印刷工場がアートの発信地に変身。 ローカルアートを育てるローカルの心意気

アメリカ南西部に位置する、コロラド州。首都デンバーは「マイル・ハイ・シティー」とも呼ばれ、標高約1マイル(1.6キロメートル)、一年のうち300日がカラッとした晴天日という“アメリカの軽井沢”のようなところです。メインストリートは端から端まで歩いても20分くらい。無料で走るシャトルバス以外は歩行者天国。清潔、安全で街ぶら天国な感じは、何となく「中南西部のポートランド」という感じでしょうか。

このデンバーでいま一番ホットな場所が、町の北部RINO(ライノ)地区。10年ほど前までは工場が立ち並ぶ環境も治安もよくないエリアでしたが、家賃の安さにひかれて多くのアーティストたちが移り住み始めてから活気がよみがえったそうです。

ここで生まれ育ったソニアさんも、このコミュニティーを復活させようと立ち上がった一人。廃れていくわが街をアートの力でよみがえらせようと、10年前に古い印刷工場の建物をまるまる購入し改築、6畳ほどのスタジオに小分けして地元のアーティストたちに月額600ドルで貸し出しています。(キッチンは共同。水光熱費込) また、毎月第一金曜日を「アーティスト・ナイト」と名付け、スタジオ内や廊下に作られたミニギャラリーを一般に公開、食事帰りの人々がふらりと立ち寄って作者と気軽に会話を交わし、気に入った作品を買える場を提供しています。現在、14のスタジオで15人のアーティストがここで創作活動をしており、人気のため“空き待ち”も多いのだとか。

ソニアさん(左)と、店子でアーティストのロゼアンさん。

「写真、絵画、彫刻、手作りクラフトなど、様々な種類のアーティストがここを使っています。入居者は基本的に私が直接会って決めています。昼間の仕事を持つ人たちも多いので、夜に集中して制作活動ができるこの場所は彼らにとってとても貴重なんですよ。私自身はアーティストではないのですが、ここは私の故郷ですからこのような形で貢献できることがなによりうれしいですね」と語るソニアさん。その口調には地元愛があふれていました。

 

 

スタジオの廊下はミニギャラリーに。

このビルと軒を連ねたすぐお隣のレストラン「The Preservery」も、コミュニティーに貢献している店のひとつ。共同経営者のウィトニーさんは、「デンバーは成長を続ける街のパワーを感じるところ。 “アートと音楽と食の融合”を通して、この街で活動するクリエイティブな人たちを応援したかったんだ」とこの店を開いた理由を熱く語ってくれました。

「The Preservery」の店長、ウィットニーさん。

 

 

土曜の昼間は若者で大にぎわい。

ニューオリンズ出身のシェフ、クーパーさん(右)が作るアメリカ南部ケイジャン&フュージョン料理は大人気。

不思議なアートがあふれる店内では、毎晩様々なジャンルのライブが行われて地元のミュージシャンの活動の場に。

 

街角のアートはすべて地元のアーティストの手によるもの。

「アートで町おこし」はよくある話ですが、州外の著名人にたよらず地元のアーティストを徹底して支援しているところがデンバーの強み。州や市の心意気が市民に伝わり、ローカルアーティストの制作欲を刺激する。どんな巨額の投資よりも力強い町おこし、復興支援の姿を見た気がしました。

●ソニアさんの貸スタジオ「Bindery on Blake 」

2901 Blake St & 2875 Blake Street Denver, CO

https://rinoartdistrict.org/go/bindery-on-blake

■アート&ミュージックレストラン「The Preservery」

3040 Blake Street, #101 Denver, CO 80205

http://thepreservery.com/

取材協力: デンバー観光局    https://www.denver.org/

Text /長野尚子

シカゴ郊外在住、フリーライター、編集者、週末ジャズ・シンガー。(株)リクルートの制作マネージャー&ディレクターを経て、早期退職。アメリカ(バークレー)へ単身“人生の武者修行”に出る。07年よりシカゴ。著書に『たのもう、アメリカ。』(近代文芸社)。facebookのコミュニティ「Chicago Samuraiシカゴ侍」管理人。「阿波踊りシカゴ」リーダー。

http://www.shokochicago.com/

 

 

 

 

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