昨年日本で初開催し大成功を収めたジェームス・サックリングの「Great Wines World TOKYO」が、今年もグランドハイアット東京で開催。昨年に引き続きチケットは前月のうちに完売、2019名の来場者を集めました。44のワイン生産地域から142ワイナリーが出展、世界的に有名なワイン評論家ジェームス・サックリング氏が100点満点中92点以上を付けたワインのみ260アイテムを出品しました。

ワインを愛好する一般消費者も業界のプロも一堂に会してテイスティングを楽しむイベントです。2度目の開催とあり要領を心得ている来場者も多く、会場を回遊するサックリング氏を捕まえて一緒に記念撮影をするシーンもしばしば見られました。一般入場15,000円の参加チケットは、28歳未満なら半額という特別割引が。「より多くの若いワイン愛好者が質の高いテイスティングにアクセスできるようにし、プレミアムワインに触れるためのハードルを下げる」というのが、サックリング氏の意図するところです。
今年日本で紹介された100点ワインは計6アイテム。うち、2アイテムはひとつのワイナリーから出ていました。
『Valdicava Brunello di Montalcino Madonna del Piano Riserva』 2019年
『Valdicava Brunello di Montalcino Vigna Montosoli』2019年

両手に100点ワインを持つのは、当主の子息でエクスポート・マネージャーのピエール・フィリッポ・アブルッツェーゼ氏。左手のマドンナ・デル・ピアーノはブルネッロ初の単一畑で、2001年・2006年・2010年・2015年を経て5度目の100点獲得です。もう一方のモントゾーリは初ヴィンテージの2015年と翌年の2016年から数えて3回目の100点。どちらも数年後の熟成を経て素晴らしくなるけれど、今からでも楽しめるとサックリング氏が太鼓判を押しています。
『Laurent-Perrier Champagne Grand Siecle Grande Cuvee N.26』

おそらくこの会場で真っ先に飲みつくされたワインでしょう。グラン・シエクル・グローバルディレクターのエデュアール・コッシー氏が「申し訳ないけれど、中身はあっという間になくなってしまって・・・」と空になったボトルを手に写真に納まって下さいました。ローラン・ペリエの象徴的なアイテムで、卓越した作柄の3ヴィンテージを厳選してブレンド。N.26は2021年と2008年と2007年を使用しており、サックリング氏は「2008年ヴィンテージが際立った存在感を放っている」と評しています。
『Bertani Amarone della Valpolicella Classic』2015年

伝統的な影干し製法で造られるワイン、アマローネの名門ベルターニの最高傑作。ボトルを片手に微笑むのは、ベルターニを傘下に収めるアンジェリーニ・ワインズ&エステーツの国際セールスディレクターのアレックス・エンドリッツィ氏です。サックリング氏が「洗練され正確な構造を持つクラシックな赤ワイン。ベルターニ特有のブドウ畑と緻密な醸造技術が紡ぐストーリー」と称えたことをワイナリー一同が光栄に感じています。
『Marqués de Murrieta Rioja Castillo Ygay Gran Reserva Especial』2012年

昨年と同じワインを携えてブースに立っていたのは、アジア・パシフィック輸出ディレクターのアルベルト・フェルナンデス氏。主体となるテンプラニーリョはアメリカンオーク、マズエロはフレンチオークの小樽で熟成、ブレンド後はコンクリートタンクで熟成されたワインです。サックリング氏が言うように、洗練されたタンニンと調和の取れたバランスを感じます。
『Seña Valle de Aconcagua』2021年

こちらも昨年と同じワインを同じ人物が紹介。各所で垂直テイスティングをしてヴィンテージの違いを見せて下さるアジア・パシフィック統括ディレクターのジュリアン・プルティエ氏です。この日は98点獲得の2022年との比較でした。2021年はセーニャの25周年記念ヴィンテージという意味でも特別感があります。

昨年同様、オーストラリア出身の人気アーティスト、スラン・シドゥ氏がDJでにぎやかなお祭りムードを盛り上げました。3時間の長丁場、テイスティングを終えた来場者が徐々に去り、開会時にはひしめき合っていた場が落ち着いてきた終盤に、サプライズは起こりました。
サックリング氏がマイクを手に取り中締めの発声かと思いきや、「カリフォルニアで素晴らしいワインを造っている日本人がいる」と言って紹介したのはYOSHIKI氏でした。たしかにステージの近くにはY by Yoshikiのブースがあり、『Y by Yoshiki Chardonnay Russian River Valley』2023(93点)と『Y by Yoshiki Pinot Noir Sonoma County Russian River Valley』2022 年(94点)が並んでいました。

登場したYOSHIKI氏は、サックリング氏と挨拶を交わすと「Forever Love」と「ENDLESS RAIN」 を演奏。壇上にある黒いカバーで隠されていたピアノの存在に気づき、ひそかに“何か”を期待して残っていた来場者には耳福がありました。
YOSHIKI氏がワインを造っているワイナリーのオーナーであるロブ・モンダヴィ氏とサックリング氏は旧友です。数ヶ月前にモンダヴィ氏からWhatsAppで連絡があり、このイベントでのY by Yoshikiの出品のみでなく、YOSHIKI本人の演奏の提案がありました。「ヨシキが主役を奪ってしまうのではと心配でした。でも彼の演奏は、テイスティングの締めくくりとして皆にとって完璧な瞬間になるに違いないと考え、進めることにしました。」と、サックリング氏は振り返ります。来年もサックリング氏は世界中のワイン産地を巡る予定ですが「これを機にYOSHIKI氏がピノ・ノワールを造っている北海道も」と述べており、2人の友好は更に深まりそうです。

2012年に香港とニューヨークで始まったGreat Wines Worldは現在、アメリカ4都市、香港、タイ、韓国、日本の5カ国で開催されています。2度目の東京開催を終え「昨年よりもさらに熱気と興奮に満ちていました。もっと広い会場を探さなければなりません!」と東京開催の手ごたえを語るサックリング氏。アジアとアメリカの両方に拠点を置く彼の目に、日本のマーケットはどのように映っているのでしょうか。
「アジアの中でも日本・韓国・タイにおけるワイン産業の発展には目を見張るものがあります。特に日本と韓国は、旅行や食及びワインに関心を持つ若い消費者層を抱える豊かな市場です。タイは成長市場であり、現地住民のワイン消費が増加しているほか、ハイエンドなツーリズムも拡大しています。中国は未知数ですが、アジア全体でワイン市場が盛り上がっていることは明らかです。唯一の懸念は高騰したワインの価格ですが、調整が進み値下がりの傾向も見えて来ています。誰もが手頃な価格で楽しめるワインがもっと必要です」。
日本のワインラバーへのメッセージも頂きました。「日本の素晴らしいワインと食のシーンに触れることができ嬉しい限りです。でもまだまだ学ぶべきことが多く、皆さんと共有したいこともたくさんあります。来年はワイナリーを訪問するなど、日本での時間をさらに楽しみたいと思っています。またお会いしましょう!」。3度目の開催が今から楽しみですね。
「Great Wines World TOKYO 2024」の模様はこちらをご覧ください。
Text /近藤さをり

ワイン&グルメPRスペシャリスト。ドイツで5年間、日本企業のワイン仕入・販売や、現地ワイナリー勤務を経て帰国。洋酒メーカー広報部、PR会社勤務を経て現在に至る。カリフォルニアワインのPRに15年以上携わる間も、執筆活動は国やジャンルを問わず。JSA認定ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定ビアソムリエ、Doemens Academy認定Diplom Biersommelier。