コロナ禍が続き、テレワークやオンラインでの会議やコミュニケーションが日常になっています。3年前にはあり得なかった働き方、生活スタイルです。一方で、先日、テスラ社の社長であるイーロン・マスク氏は、社員に社内メールで「社員は全員、フルタイム出勤が義務づけられている。もしリモートワークを継続するならば、辞職したと見なす」と通達しました。実は、「在宅勤務はサボリの温床」という狭い発想だけではない理由があるのです。最近の研究から、テレワークやオンラインは脳が疲れ、脳の衰えにつながることがわかってきました。
脳が衰えないテレワークの仕方
外出自粛でテレワークだと、オンライン中心になるため、ほとんど一日中、座りっぱなしで運動不足になります。運動不足は、太るなど体への影響だけでなく、脳にもネガティブです。以前お伝えしたように、認知症リスクの軽減で、もっともエビデンスがあるのは運動習慣、とくにウォーキングなどの有酸素運動です。出勤による運動量は意外と多く、脳によいことがわかっています。
テレワークを2時間したら、スクワットや踏み台昇降など有酸素運動をする時間を10分確保する、朝か夕方には散歩をするなど、気分転換も含めてうまくワークスケジュールを組み立てるのはいかがでしょうか。また最近は自宅ではスタンディングデスク(立って仕事ができるよう昇降する机)を利用して、座りっぱなしを予防する人も増えています。
脳疲労によるもの忘れやイライラが深刻
またテレワークによる脳疲労も昨今、大きな問題となっています。脳は複数の情報群を同時並行で処理することが苦手です。テレビをつけっぱなしにしたり、SNSを時々チェックしたり、家事も気にしながら仕事していると、マルチタスクになり、脳はそれらを処理するために、ワーキングメモリ上で何度もタスク処理の切り替えを行うことになります。
これを長く続けると脳疲労の状態になり、もの忘れやイライラの原因にもなります。朝から晩まで、パソコンとだけ向かい合っていると、脳を休ませることができず、知らないうちに脳疲労を起こしてしまいます。出勤の電車内でぼーっとする時間や、職場での同僚との会話は、よい加減に、脳疲労を緩和させてくれているのです。
テレワークでもある程度のところまで脳を働かせたら、脳を休ませることが必要です。オンライン会議の前後に少し雑談タイムを設ける、ランチタイムや休憩時には、スマホやテレビ、パソコンから遠ざかるなどもぜひ試みてください。また瞑想なども脳疲労を緩和する効果があると言われています。呼吸瞑想のほかに、意識を身体や動作に集中しながら行う「歩く瞑想、食べる瞑想」など、いろんな場面でマインドフルネスは行えますので、習慣化してみてはいかがでしょうか?
オンラインで、共感は生まれない
私が働く脳科学ベンチャーの取締役CTOである川島隆太博士(東北大学加齢医学研究所)の研究によると、オンライン会議やオンライン授業では、前頭前野があまり働かない、よいコミュニケーションをとりにくいことがわかっています。
対面でお互い顔を見ながらよいコミュニケーションがとれた場合には、お互いの脳活動が「同期する」という現象が起きます。ところが、オンラインでは脳が「同期しない」という実験結果が出ているのです。脳活動が同期しないことは、脳にとっては、「オンラインでは、コミュニケーションになっていない」のです。情報は伝達できるが、感情は「共感」していない。つまり、相手と心がつながっていない、ということを意味します。画面オンでもそうなのですから、画面オフは言語道断ですね。
オンラインと対面を使い分ける
テレワークやオンラインをやめてコロナ前に戻れ、ということではありません。実際に私は、オンラインのおかげで多くのセミナーなどに参加できインプットが増えていますし、海外に住む友人とも気軽に対話できるようになりました。
そうです、テレワークやオンラインの便利さは享受しながらも、脳が疲れないように工夫して、脳本来のパフォーマンスを発揮できなくならないように意識することが大切です。そして必要に応じて対面で人に会ったり、対話したり、オンラインに頼らない行動も必要です。どうでもよい中身の薄い会議はオンラインで十分とも言えます(あ、そんな会議はやめたほうがいいですね)
いずれにせよ、テレワークやオンラインによる弊害を意識しながら、うまく対面と使い分けていくことが、ポストコロナ時代に求められる働き方、生活スタイルではないでしょうか。
Text / 糸藤友子
リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、現在は脳科学ベンチャーで、脳の可能性を最大化するためのサービス開発(【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/)などを担当。認知症の知識や予防の技術を学び「認知症予防専門士」と、発酵の原理・歴史・効果などを学び「発酵マイスター」の資格を取得。脳腸相関に基づき、脳活と腸活による健康寿命の延伸をミッションとして活動中。