前代未聞の作品が大集合 開催中の特別展「北斎づくし」に圧倒される

江戸時代後期に活躍した、言わずと知れた浮世絵師・葛飾北斎の生誕から260年を記念した【 生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」】が東京・六本木の東京ミッドタウン・ホールにて7月22日に開幕しました。開幕前日に行われた内覧会に行ってきましたので、ご報告します。

20歳で浮世絵師としてデビューし90歳で没するまで、3万点にも及ぶ作品を描き続けた北斎。その代表作「北斎漫画」「冨嶽三十六景」「富嶽百景」の全頁・全点・全図が一堂に会する展覧会です。

会場に入ると、まずは「北斎漫画」を含む「絵手本」のエリア。拡大してプリントされた北斎漫画のコピーが床や壁に一面にぎっしり。そして天井からも垂れ幕のように吊り下げられ、四方八方から北斎に取り囲まれ、一気にその世界に引き込まれます。展示ケースには全15篇の絵手本。

葛飾北斎 『北斎漫画』二編 浦上満氏蔵

絵手本とは、文字通り「何かを描く時はこう描くといいですよ」というお手本のこと。鳥や魚・植物はとても精巧に描かれていて、図鑑のよう。神話の神様や歴史上の武人やお姫様、庶民の人々の様子、武術やそれに使われる馬、神社仏閣などの建造物、そして幽霊…北斎って、世の中にある全てのものを描きたかったのですね。「三編」にある「雀踊り」には思わず足を止めてじっくり見てしまいます。「雀踊り」は江戸時代後期に流行った踊りで、絵手本ではパラパラマンガのように踊りのポーズが見開きのページで描かれています。これを手本に江戸時代の人は「踊ってみた!」をしていたかもしれません。今なら差し詰め動画を見ながら、踊りの練習をするような感じかも。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 甲州石班沢」山口県立萩美術館・浦上記念館 蔵(浦上コレクション)

次の部屋は、「冨嶽三十六景」の「赤富士」を思わせるような赤い部屋。そこに「冨嶽三十六景」に加えて、大人気だったため追加出版された10点、計46点が円形に展示されています。「北斎漫画」の白を基調とした部屋とガラッとムードが変わります。この中で一番印象に残ったのは「甲州石班沢」。富士を背景に、岩のてっぺんに立ち投網を引き揚げ用としている漁師が中央に描かれています。岩に砕け散る波。この作品を始め数点は青一色で描かれており、多色刷りのほかの作品と違った雰囲気を醸し出しています。この青色は「ベロ藍」という18世紀初めにドイツ・ベルリンで発見された化学染料。江戸時代には輸入され、北斎が好んで多用したので「北斎ブルー」とも呼ばれています。

最後の部屋は「冨嶽百景」。富士山にまつわる神話・伝説・歴史、そして四季折々の富士山の様子を描いた絵本で、単色刷り、初編・二編・三編で102図あります。私のお気に入りは「遠江山中の不二」。見開きのページの真ん中に巨木、左下に富士山。木こりが綱をピンと張って、木を切ろうとしています。直線的な富士山の形と綱。それを身体にくくりつけて逆さになっている木こりの緊張感。動かない富士山と大木、そして木が切られるにつれ飛び立つ鳥。「静」と「動」のバランスが絶妙です。

プロジェクションマッピングのエリアも面白いです。もともと動きがある北斎の絵だからこそ、プロジェクションマッピングで新たな命を吹き込まれて動いています。

「あと10年、いやあと5年の命を与えてくれれば、本物の絵師になれるのに」と90歳で語った北斎の情熱と執念を感じる圧巻の展覧会。

会場設計は、ヨーロッパ等で高い評価を受ける若手建築家・田根剛氏。キービジュアルと会場グラフィックはブックデザイナーの祖父江槙氏。そして、展解説は、永青文庫副館長で、日本美術についてSNSを含む発信が多い橋本麻里氏。各界で偉才を放つ方々がタッグを組んだことも興味深いです。通常の博物館・美術館での展覧会とはひと味もふた味も違ったこの特別展をじっくり堪能していただきたいです。

生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」 https://hokusai2021.jp/

会期

2021年7月22日(木.祝)~9月17日(金)

開館時間

11:00~19:00(最終入場18:30)

休館日

8月10日(火)、8月24日(火)、

9月7日(火)

会場

東京ミッドタウン・ホール [東京ミッドタウンB1]

〒107-0052 東京都港区赤坂9丁目7-2

*コロナの感染状況などによって開館時間などに変更が生じる場合がありますので、詳細はHPから事前に確認ください。

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクディビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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