バレンタインデーが間近に迫るにしたがって、チョコレートシーズンもいよいよ佳境に入ってまいりました。今年も世界的に有名なショコラティエやお菓子メーカーの逸品がずらりと勢ぞろいし、どれにしようか迷うのも楽しい今日この頃です。とにかく素敵なチョコレートが目白押しの中、今年「サロン・デュ・ショコラ2020」で日本デビューを飾ったばかりのスイスチョコレート『Oro de Cacao』はちょっと異色。日本での本格展開に先駆けて来日したオーナーのディーター・メイヤー氏にお話を聞きました。
「第五のチョコレート? Oro de Cacaoはそんなものじゃないよ!」と堂々と言い放つメイヤー氏。ん? このお名前、どこかで聞いたことが……? と思った方も多いはず。そう、メイヤー氏は80年代に人気を博したエレクトロニック・ポップバンド『YELLO』(アメリカの青春映画『フェリスはある朝突然に(1986)』でフィーチャーされた曲『Oh Yeah』は有名ですね~)のヴォーカルのあのメイヤー氏です。近く新しいアルバムもリリース予定の現役のミュージシャンですが、実は彼、スイスではさまざまな事業を手掛ける起業家としても知られています。
今回の来日は彼の新事業のひとつ、新しい製法で作られたチョコレート『Oro de Cacao』のプロモーションのため。2014年に完成し、国際特許を取得し製品化してからじりじりとファンを増やしているこのチョコレート、満を持して今年の「サロン・デュ・ショコラ2020」に初登場しました。
【新しい製法と純粋なカカオのみの香り】
その「新しい製法」とは、「Cold Extraction」と呼ばれるもの。豆を焙煎せず、低温でカカオ本来のアロマやポリフェノールを抽出する製法で、紀元前の古代マヤやアステカ文明のカカオの加工技術を参考に、チューリッヒ応用科学大学のヒューン教授が編み出した新手法です。もともとヒューン教授はワインやフルーツなどからそのアロマを抽出する研究の第一人者で、南米を旅したときに偶然目にした古代マヤの石臼からインスパイアされてカカオのアロマを抽出することに成功したのだそう。従来のチョコレートとはまったく違う、カカオのみを由来とする薫り高いチョコレートが出来上がりました。
「カカオのみ」とはその言葉通り、香料を加えず純粋にカカオのみが持つ薫り。『Oro de Cacao』はダーク、ミルク、ホワイトの3種類を製造していますが、それぞれカカオの産地が異なるためその風味も違います。「まるでワインのようでしょう」とメイヤー氏が言うとおり、一口でも食べてみれば育つ土壌によってカカオの風味が異なることが確認でき、驚かされます。でも、なによりびっくりしたのはダークチョコレート。カカオ含有率が高いばかりにポリフェノール特有の苦みや酸味が強いのがダークチョコレートの特徴ですが、『Oro de Cacao』のダークチョコレート(ペルー)はカカオ80%であるにもかかわらずまろやか。口内の水分をもっていかれる感じもなく、コーヒーにすら合わせやすいマイルドさです。フルーティでもあり、スパイシーでもあり、と複雑なアロマが感じられるところは確かにワインをたしなんでいるかのよう。もちろん、赤ワインとの相性も抜群です。
メイヤー氏によると、従来のチョコレートはカカオ特有の苦みなどを消すために高温処理したうえに香料や砂糖をたくさん加えなくてはならず、この高温処理のためにアロマが弱まってしまうのだそう。『Oro de Cacao』の「Cold Extraction」ならばその心配がないため、香料や砂糖にたよらなくてもいいというわけ。おかげでダークチョコレートでも加糖する量が少なくて済むのだそう。ポリフェノールがたっぷりなうえに糖分が少ないなんて、理想的ではありませんか。筆者のイチオシはなんといってもこのダークチョコレートです。
【第一のチョコレートから第4のチョコレートそして…】
実はカカオって南米では紀元前から食されていたものですが、コンキスタドール(南米の征服者)のコルテス将軍がヨーロッパに持ち帰って以来、さまざまな方法でその食べ方やおいしさが追及されてきた食材です。現代に広く流通するチョコレートの製法(カカオバターによって冷えると固形になるもの。それ以前は液体の飲み物でした)が“第一のチョコレート”だとすると、もっと食べやすくミルクをふんだんに加えたミルクチョコレートが“第二のチョコレート”。そこにさらにミルク感を増やしカカオの黒い色がまったくないものがホワイトチョコレートで、これは“第三のチョコレート”と呼ばれています。
ホワイトチョコレートの製法開発から約80年を経て新しい製法によって作られたのがピンク色のルビーチョコレートで、これが“第四のチョコレート”といわれています。それゆえ、この「Cold Extraction」という国際特許を取得した新しい製法のチョコレートが“第五のチョコレート”か? とスイーツ界で色めき立っているわけですが、冒頭に紹介したとおり、メイヤー氏は「そんなものじゃない!」とばっさり。これまでの“チョコレート”の概念を完全に覆す、「これはレボリューション(革命)なんだよ」と。
つまり、『Oro de Cacao』のチョコレートはチョコレートのチョイスの中のひとつではなく、新たなスタンダードになるかもしれないということ。日本にはまだ店舗がありませんが、チョコレートの新時代の幕開けを予感させる『Oro de Cacao』、今年の秋に予定されている日本での本格展開が待ちきれません。
Oro de Cacao https://www.orodecacao.com/en
トップ画像:『Oro de Cacao』の板チョコは1枚1,800円。産地の違うチョコレートの風味を食べ比べできるアソート(6種類×各2枚入り)は3,000円(いずれも税抜価格)
輸入元:DKSHジャパン
Text /岩佐史絵
トラベルジャーナリスト/コーディネーター。人生を豊かにするような旅を! をモットーに、魅力的な旅スタイルをさまざまなメディアに提案。ラグジュアリー、グルメ、子連れ、教育などのテーマでの旅記事執筆が多いものの、北極やアマゾン源流など辺境も大好物のフリーランス。